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ファナック、全ロボットをGoogleのIntrinsic基盤に対応 NVIDIAとも連携強化、フィジカルAI出荷は1000台超

ファナックは5月13日、全てのロボットをGoogleのAIロボティクス企業Intrinsicのエンタープライズ向けソフトウェア基盤に完全対応させ、Google DeepMindの「Gemini Robotics Trusted Testerプログラム」に参加すると発表した。2025年12月以降、フィジカルAI関連で1000台以上を出荷したことも明らかにした。2日後にはROBOGUIDEとIsaac Simの連携、Isaac GR00T Nによる双腕ロボットの模倣学習、Jetson Thorの採用など、NVIDIAとの連携強化を打ち出した。

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要約

ファナックが5月中旬の2日間で、米国の2大ロボットAI基盤との結び付きを一気に深めた。5月13日にGoogleとの協業を発表し、Gemini、Google Cloud、Google DeepMindのロボット向け基盤モデル、GoogleのAIロボティクス企業Intrinsicの技術を自社ロボットと組み合わせると表明した。続く15日にはシミュレーション、ロボット学習、エッジコンピューティングの3分野でNVIDIAとの連携を強化すると発表した。いずれも5月の新商品発表展示会で実演するとしていた。

Googleとの協業で最も重いのは制御ソフトの開放だ。ファナックは、全てのロボットがAIロボットソリューションの構築、テスト、実装を容易にするIntrinsicのエンタープライズ向けソフトウェア基盤に完全対応する予定で、Intrinsicの開発環境「Flowstate」と互換性のあるロボット制御を全面的にサポートすると説明した。IntrinsicはROSの開発を主導する組織だとしている。独自の制御体系を守ってきたファナックとしては異例の踏み込みといえる。

ファナックはGoogle DeepMindの「Gemini Robotics Trusted Testerプログラム」にも参加し、ロボット向け基盤モデルの研究を進める。さらに企業向け生成AI基盤「Gemini Enterprise」を使い、人の指示を理解して物体を認識するAIエージェントを構築し、可搬質量3キロから2.3トンまでのロボット群とつなぐ構想を示した。

需要の手応えも数字で示した。2025年12月の国際ロボット展でフィジカルAIを初披露して以降、すでに1000台以上のファナックロボットをフィジカルAI関連で出荷したという。顧客や用途の内訳は明らかにしていない。4月の決算説明会の質疑応答要旨では、フィジカルAI分を切り分けて台数を数えていないと説明していた。

NVIDIAとの連携強化は3本柱だ。第1はシミュレーション。オフラインプログラミングソフトROBOGUIDEとNVIDIA Isaac Simの連携を2つの形で深めた。Isaac Simが主役でROBOGUIDEが裏で動く形では、実機の教示操作盤をつないで仮想空間のロボットを実機のように直感的に動かせ、GPUによる高速な工程設計やセンサーを含むシミュレーションができる。ROBOGUIDEが主役の形では、NVIDIAの物理エンジンPhysXを使い、従来は仮想空間で難しかったバラ積みピッキングのシミュレーションが可能になったという。

第2はロボット学習。協働ロボットCRXを2台使った双腕ロボットが、NVIDIAの基盤モデル「Isaac GR00T N」を用いた模倣学習でTシャツ畳みを習得する実演を用意した。作業者の手本から学び、カメラ映像を基にリアルタイムで動きを滑らかに調整しながら自律的に畳む。従来の教示再生方式では難しかった柔らかい物の扱いの限界を超える手法だと位置付ける。

第3はエッジコンピューティング。昨年の展示会で披露したAI干渉回避ロボットシステムの演算装置をJetson AGX OrinからJetson Thorの「T5000」モジュールに置き換え、AI演算性能を7.5倍以上に高めたとしている。

今回の発表は過去最高決算の直後に出た。2026年3月期のロボット部門売上高は14.9%増の3786億円で、全社の44.1%を占めた。同社は国際ロボット展以降、フィジカルAIの引き合いが国内外で増えていると説明している。

国内大手3社で比べると、ファナックはロボット事業の規模と収益性でいずれも首位に立つ。安川電機は自社の自律型AIロボット「MOTOMAN NEXT」を軸に据え、川崎重工業は半導体製造装置向けロボットに強みを持つ。

国内大手3社のロボット事業比率
  • ファナック
    決算期
    2026年3月期
    ロボット売上高(10億円)
    378.6
    連結売上高(10億円)
    857.8
    ロボット比率(%)
    44.1
    連結営業利益率(%)
    21.4
  • 安川電機
    決算期
    2026年2月期
    ロボット売上高(10億円)
    247
    連結売上高(10億円)
    542.1
    ロボット比率(%)
    45.6
    連結営業利益率(%)
    8.7
  • 川崎重工業
    決算期
    2026年3月期
    ロボット売上高(10億円)
    92.9
    連結売上高(10億円)
    2311.2
    ロボット比率(%)
    4
    連結営業利益率(%)
    6.3

各社開示値。ロボット比率はロボット売上高を連結売上高で割った値。川崎重工の利益率は事業利益ベース。

2026年10月1日時点

人手不足が深刻な国内製造業にとって、言葉で指示でき、手本から学ぶロボットは導入の壁を下げる可能性がある。中小企業ではロボットの教示を担う技術者が不足しており、模倣学習やGeminiによる対話型の指示が実用化すれば、熟練者に頼らない自動化が広がる。一方で、制御の中核を米国の基盤に委ねることは、国内ロボット産業の付加価値の一部が海外のソフト企業に流れることも意味する。

商業面の課題は残る。IntrinsicやGeminiのソフトの課金方法、顧客がGoogleとファナックのどちらに対価を払うのか、Tシャツ畳みがいつ実演の域を出るのかは示されていない。制御を外部ソフトに開くことで、ROBOGUIDEなど自社ソフトの価値が基盤企業に移る懸念もある。

ROBOTNESS分析

ファナックは独自のAI体系を築くより、米国AI基盤に最も幅広く対応するロボットハードの地位を選んだ。数量は守れるが、ソフト層の一部を明け渡す賭けでもある。

根拠は発表の文言にある。2日間で全ロボットのIntrinsic対応、DeepMindのテスタープログラム参加、NVIDIAのシミュレーター、基盤モデル、エッジモジュールの採用を打ち出したが、ファナック独自のAIモデルを主役に据えた発表はなかった。

最も有力な反論は、安全と精度を左右する制御装置、サーボモータ、ROBOGUIDEをファナックが握り続けている点だ。NVIDIAとの2つの連携形態のうち1つはROBOGUIDEが主役である。開放は最終的にファナックのロボット販売につながる用途を広げるだけかもしれず、12月以降の1000台出荷はその可能性を示す。

強気シナリオ:IntrinsicとGeminiによりファナックのロボットがAI開発者の標準となり、フィジカルAI出荷は1000台を大きく超える。NVIDIAのツールで立ち上げ期間が縮み、サービス収入も伸びる。

弱気シナリオ:ソフトの付加価値がGoogleとNVIDIAに集中し、同じ基盤を採用する中国メーカーとのハード価格競争が激しくなる。実演が量産ラインの売上になるまで数年を要する。

  • 2026年5月下旬:新商品発表展示会。GoogleとNVIDIAの実演が初めて公開の場で試される。
  • 2026年7月31日:第1四半期決算。ロボット受注が四半期1000億円超を保てるか。
  • フィジカルAI出荷台数の追加開示。5月13日の1000台が基準となる。
要点
Google協業発表
2026年5月13日
NVIDIA連携強化発表
2026年5月15日
Intrinsic
全ロボットがIntrinsicのエンタープライズ基盤とFlowstateに対応
DeepMind
Gemini Robotics Trusted Testerプログラムに参加
フィジカルAI出荷
2025年12月以降1000台以上
可搬質量
3キロ~2.3トン
シミュレーション
ROBOGUIDEとIsaac Sim、PhysXの連携
ロボット学習
双腕CRXがIsaac GR00T Nの模倣学習でTシャツ畳み
エッジ
Jetson Thor T5000を採用、AI演算性能7.5倍以上
出典
ROBOTNESS インテリジェンス
  1. 01

    なぜ重要か

    産業用ロボットは長く、制御装置、プログラミング言語、シミュレーションまで自社で囲い込む閉じた体系で売られてきた。最大手のファナックが全ロボットをIntrinsicに開いたことは、閉じた体系の防衛より、AI開発者に選ばれるハードになる価値を重く見始めた表れだ。

    12月以降のフィジカルAI出荷1000台は、大手メーカーが示したAI起点の需要として初の具体的な数字であり、市場の基準値となる。

  2. 02

    競合分析

    安川電機は自社コントローラーを核にした「MOTOMAN NEXT」で一体型の道を進む。開放型のファナックと一体型の安川という対比が、国内2強のAI競争の構図を決める。

    不二越、デンソーウェーブ、エプソンなど他の国内勢にとっても、どの基盤に対応するかが製品戦略の焦点となる。海外ではABBやKUKAがファナックと同じ自動車顧客を争っている。

  3. 03

    企業価値の背景

    ファナックのロボット部門は3786億円で国内最大、連結営業利益率21.4%は安川電機の8.7%を大きく上回る。株式市場はこの利益率を評価しており、ソフトの価値がGoogleやNVIDIAに流れるかどうかは目先の出荷台数より重要だ。

    両協業とも金銭的な条件は開示されておらず、現時点では収益分配より技術協力の色合いが濃い。

  4. 04

    サプライチェーンへの影響

    Jetson Thorの採用でNVIDIAはファナックのシステム内のエッジ演算の供給者となり、Gemini EnterpriseとGoogle CloudはAIエージェント層にクラウド依存を持ち込む。

    双腕の模倣学習は、ビジョンセンサーや柔らかい物をつかむハンドの需要を押し上げる。キーエンスなど国内のセンサーメーカーやハンドメーカーには商機となる。

  5. 05

    今後の注目点

    新商品発表展示会の後は、ファナックのロボットでIntrinsicやGeminiを使う顧客名の公表とライセンス条件に注目したい。

    安川電機や川崎重工業が同様の基盤提携に動くか、国内の中小製造業で対話型ロボットの導入が始まるかも焦点となる。

  6. 06

    アナリストの見方

    見立て:ファナックは米国AI基盤の標準ロボットハードとしての地位を固めつつあり、数量には追い風だが利益がソフトへ移るリスクを抱える。確信度:中。約束の中身は具体的だが、顧客名と商業条件がまだない。

    2026年末までにフィジカルAIの売上や量産顧客を開示すれば確信度を上げる。基盤企業が競合の安価なハードを同等に認証し始めれば下げる。

  7. 07

    問うべき論点

    工場がファナックのロボットにIntrinsicを導入した場合、顧客との関係とソフト収入は誰に帰属するのか。外部AIが動作指令を出す際の安全認証はどう扱うのか。

    1000台のフィジカルAIロボットのうち、GoogleやNVIDIAの技術を使った比率と、購入した業種の内訳はどうか。