中国、第15次5カ年計画にエンボディドAIを明記 産業用ロボット生産は28%増の77万台
中国の全人代は3月12日、2026〜2030年の5カ年計画綱要を承認し、エンボディドAIを未来産業に位置づけた。実地訓練場の配置や大脳小脳一体型モデルの開発、ヒューマノイドの現場導入を求めており、国家統計局によると2025年の産業用ロボット生産は28.0%増の77万3074セットだった。

中国の全国人民代表大会(全人代)は2026年3月12日、第14期第4回会議の閉幕にあたり「国民経済と社会発展の第15次5カ年計画綱要」を承認した。全人代が採択した決議で明らかになった。2026年から2030年までの経済政策の骨格となる綱要は、エンボディドAI(具身知能)を新たな成長源に育てる「未来産業」に位置づけ、ロボットを基幹産業に育成する戦略的新興産業の一つに明記した。
政策の後押しを受ける産業は、すでに急拡大している。国家統計局によると、2025年の一定規模以上の企業による産業用ロボット生産量は77万3074セットと前年比28.0%増えた。サービスロボットは16.1%増の1858万1081セットだった。李強首相は3月5日の政府活動報告で、産業用ロボット生産の28%増をハイテク製造業の付加価値9.4%増と並べ、産業高度化の成果として挙げた。
綱要は未来産業の章で、エンボディドAIを量子技術、バイオ製造、水素と核融合エネルギー、ブレインマシンインターフェース、第6世代移動通信と同列に並べた。これらの分野について、投資拡大とリスク分担の仕組みを整え、実証プロジェクトを実施し、複数の技術ルートや典型的な応用場面、採算の取れるビジネスモデル、市場監督ルールを探るとした。国家未来産業研究院や概念実証センターを設け、研究と産業の基盤が厚い地域に未来産業先導区を置く方針も示した。
最も具体的な記述は、集積回路や新型電池、商業宇宙など10分野を並べた「コラム3」にある。エンボディドAIの項目は、実地訓練場を全国で計画的に配置し、仮想と現実を融合した協調訓練を進め、フィジカルAIを研究し、「大脳」と「小脳」を一体化したモデルとアルゴリズムを開発するよう求めた。ロボット本体と中核部品の技術を突破し、ヒューマノイドをはじめ各種形態の製品の高度化と現場導入を急ぐことも盛り込んだ。同じコラムの高度医療機器の項目には、知能化手術ロボットも登場する。
導入先も明示した。「AIプラス」行動をまとめたコラム10は、人と機械が協働する新しい働き方を探り、人手不足が深刻な職場や環境リスクの高い職場でエンボディドAIを活用するよう求めた。業界では「大脳」は認識、推論、計画を担う大規模モデルを、「小脳」はリアルタイムの動作制御を指す。実地訓練場はロボットが実作業のデータを集める施設で、そのデータをシミュレーションと組み合わせて学習させる。
標準化も並行して進んだ。珠海市工業情報化局の通知によると、工業情報化省(MIIT)傘下のヒューマノイドとエンボディドAIの標準化技術委員会は2月28日、「ヒューマノイドロボットとエンボディドAI標準体系(2026年版)」を公表した。120を超える研究機関と企業が策定に加わり、基礎共通、脳型と知能計算、肢体と部品、完成機とシステム、応用、安全と倫理の6部門で構成する。
綱要承認後の統計も勢いの持続を示した。1〜2月の産業用ロボット生産量は14万3608セットと31.1%増え、国家統計局の工業担当首席統計師は、ロボット生産の加速と設備更新が汎用設備の付加価値を8.9%押し上げたと説明した。1〜3月期は33.2%増の23万7554セットだった。一方、サービスロボットは1〜2月が1.0%増、1〜3月期が2.6%増と伸びが鈍った。
国際ロボット連盟(IFR)によると、2024年の中国の産業用ロボット設置台数は29万5000台で、世界全体54万2000台の54%を占めた。日本は4万4500台で4%減、米国3万4200台、韓国3万600台、ドイツ2万6982台だった [[table:0]]。中国メーカーの国内シェアは2024年に57%と、前年の47%から上昇した。ファナックや安川電機など日本のロボットメーカー、減速機やサーボモーターを供給する部品メーカーにとって、中国市場で国産品と競う構図は一段と厳しくなる。
課題も残る。綱要はエンボディドAIの生産目標や予算、期限を示しておらず、並行して策定される国家級の専門計画に委ねた。統計の読み方にも注意が要る。2024年の統計公報は産業用ロボット生産量を55万6000セットとしたが、2025年の28.0%増は比較可能な企業ベースで算出されており、両者を単純に割り算できない [[table:1]]。国家統計局の数字は輸出分を含む生産量で、IFRは設置台数である点も異なる。
ROBOTNESS分析
第15次5カ年計画はエンボディドAIを地方や省庁の熱気から国家計画上の公約へと格上げし、中国は5年前にはなかった生産規模を携えてその公約に臨む。
根拠は綱要の構成にある。エンボディドAIは未来産業の章、AIの章、コラム3、AIプラス行動の4カ所に登場し、資金の仕組み、技術の優先順位、導入先という異なる役割を担う。実地訓練場と大脳小脳一体型モデルを組み合わせた点は、実作業データとシミュレーションを結ぶ一貫した技術方針を示している。
最も有力な反論は、数字がないことだ。綱要自身も、実効性に欠ける計画の乱立を戒めている。定量目標がなければ勝敗を分ける資金と調達は後回しになり、どの省もヒューマノイド集積地を望む中で分散しかねない。
強気シナリオ。リスク分担の仕組みと先導区が、国内市場の過半を既に握る中国のサプライチェーンに忍耐強い資本と公共需要を振り向ける。人手不足の職場が予算付きの導入先になれば、2025年の産業用ロボットのように台数が積み上がる可能性がある。
弱気シナリオ。サービスロボットの生産の伸びは2026年初めに一桁台前半まで落ちた。政策が実需より先に供給を膨らませれば、重複投資や価格競争、薄利を招き、ヒューマノイドは計画の想定より長く展示場にとどまるかもしれない。
注目すべきシグナル:
- 2026年10月中旬: 国家統計局の9月と7〜9月期の工業生産統計。ロボット生産の30%超の伸びが通年で続くかを確かめる最初の材料になる。
- 2026年中: 工業情報化省と国家発展改革委員会によるロボットと未来産業の専門計画。綱要が省いた数値目標が示されるかが焦点となる。
- 2027年3月: 次の政府活動報告。エンボディドAIが未来産業のリストから具体的な予算項目に移るかが分かる。
- 中国
- 295,000
- 7
- 54
- 日本
- 44,500
- -4
- データなし
- 米国
- 34,200
- データなし
- データなし
- 韓国
- 30,600
- -3
- データなし
- ドイツ
- 26,982
- -5
- データなし
- 世界
- 542,000
- データなし
- 100
IFR World Robotics 2025の2025年9月25日発表資料。生産ではなく設置台数。前年比とシェアはIFR公表値、非公表はnull。
2026年10月1日時点
- 2024年
- 556,000
- 14.2
- 10,519,000
- 15.6
- 2025年
- 773,074
- 28
- 18,581,081
- 16.1
- 2025年12月
- 90,116
- 14.7
- 1,564,018
- 4.6
- 2026年1〜2月
- 143,608
- 31.1
- 2,547,480
- 1
- 2026年1〜3月期
- 237,554
- 33.2
- 4,439,918
- 2.6
国家統計局の一定規模以上企業の統計。2024年は2024年統計公報の公表値(1万セット単位で四捨五入)。前年比は比較可能ベースの公式値で、表中の実数からは算出できない。
2026年10月1日時点
- 2026年3月12日、第14期全人代第4回会議
- 2026〜2030年
- 未来産業、コラム3の重点、AIプラスでの活用
- 77万3074セット、28.0%増
- 1858万1081セット、16.1%増
- 23万7554セット、33.2%増
- MIIT標準化委、2026年版、6部門
- 29万5000台、世界の54%
なぜ重要か
5カ年計画綱要は中国の計画体系の頂点に立つ文書で、各省庁、省級政府、国有企業はこれに沿って自らの計画を作る。エンボディドAIが未来産業の章、コラム3、AIプラス行動のすべてに入ったことで、地方政府は実地訓練場や先導区、公共調達に予算を付ける明確な根拠を得た。
綱要はヒューマノイドを展示ではなく、一体型モデル、中核部品、実環境での訓練と結びつけた。人手不足と高リスクの職場を対象市場に挙げており、政策資金はまず産業現場と公共部門の導入に向かう公算が大きい。
競合分析
日本も人手不足を背景にフィジカルAIへの取り組みを強めているが、手法は異なる。IFRによると2024年の日本の産業用ロボット設置台数は4万4500台で4%減り、中国は過去最高の29万5000台だった。
部品と完成機のメーカーにとって重要なのはシェアだ。中国メーカーの国内シェアは2024年に57%と1年で10ポイント上がった。本体と中核部品の国産化を支える計画は、日本の完成機メーカーと減速機、サーボ、センサーの供給企業が中国でシェアを維持することを一段と難しくする。
企業価値の背景
綱要は未来産業への投資拡大とリスク分担の仕組みを掲げ、政府活動報告は政府系投資ファンドに忍耐強い資本となるよう求め、国家ベンチャー投資誘導基金の効率的な活用を打ち出した。いずれも金額は示していない。
2026年8月に上海の科創板に上場した宇樹科技(Unitree)など中国のロボット企業の株価には政策プレミアムが乗っている。定量目標がない以上、このプレミアムは確定した資金ではなく、今後の専門計画への期待に支えられている。
サプライチェーンへの影響
コラム3はロボット本体と中核部品を重点に挙げた。精密減速機、サーボモーター、関節モジュール、多指ハンド、センサー、搭載コンピューティングが該当し、高級品の領域では日本と欧州の企業がなお強い。
MIITの標準体系はもう一つのてこになる。肢体と部品、脳型と知能計算の部門がインターフェースや試験方法を定めることになり、国産部品を前提に書かれた標準は補助金と同じくらい調達の構図を左右しうる。
今後の注目点
毎月中旬に公表される国家統計局の生産統計は、政策のシグナルが実際の生産につながるかを確かめる最も早い指標だ。1〜2月の31.1%増、1〜3月期の33.2%増という高い基準ができた。
政策面では、工業情報化省と国家発展改革委員会の専門計画、未来産業先導区の最初の指定、2027年3月の政府活動報告が焦点となる。
アナリストの見方
見立て: 綱要はエンボディドAIを2030年まで続く国家の優先課題に据え、中国は産業用ロボットの量の中心であり続けるが、ヒューマノイド普及の速さは今後の専門計画次第だ。確信度は中程度。政策文書と生産統計は確かだが、綱要に数字はなく、サービスロボットの伸びは鈍っている。
専門計画が生産や導入の目標を示し、ヒューマノイドが公式統計に独立した品目として現れれば確信度を引き上げる。産業用ロボットの伸びが2024年の14.2%程度に戻れば引き下げる。
問うべき論点
投資拡大とリスク分担の仕組みには、どれだけの公的資金がどの基金を通じて投じられるのか。
未来産業先導区と実地訓練場はどの地域に置かれ、重複投資をどう防ぐのか。
国家統計局はヒューマノイドを独立した品目として集計するのか、するならいつからか。